倉庫のピッキング作業で時間がかかりすぎていませんか?
効率的なピッキングは、全体の物流プロセスをスムーズにするための鍵です。業務のスピードアップだけでなく、作業者の負担軽減、コスト削減、さらに顧客満足度の向上など多くのメリットをもたらし、企業の競争力を高め、ビジネスの成長を促進します。
本記事では、ピッキングの課題・解決策を解説しています。効率化に使えるツールについても、それぞれの特徴やメリット・デメリットをご説明します。高額費用をかけずとも、すぐ実践できる効率化ポイントもご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
ピッキングとは
ピッキングとは、倉庫から販売または出荷のために必要な商品を選び出し(ピックし)、出荷場所に集める作業です。
ピッキングリスト(伝票や指示書)を元に、商品の種類、位置、数量等を確認し、必要な商品を正確にキャッチして最終的な出荷のための準備をします。
物流・配送業務の中心となるピッキングは手間と時間が必要な作業であり、効率化が求められます。
ピッキング方法の種類
ここでは、主な3つのピッキング方法についてご説明します。
どんな運用方法で、どんなメリット・デメリットがあるのか、どんな倉庫が適しているのか。それぞれの特徴を把握した上で、自社にとって最も効率の良い方法を考えてみてください。
方法① シングルピッキング(摘み取り方式)
シングルピッキングは1つの出荷注文ごとに各保管場所から商品を取りだす作業方法です。注文が来たら都度商品を取りに行くという、きわめてシンプルな方法です。
メリット
一度に1つの注文を処理するという単純な内容なので、商品や数量の間違いといったピッキングエラー(ミス)が起きにくいです。
デメリット
注文の都度商品を取りに行く=注文の数だけ往復しなくてはならないため、無駄な移動、作業が発生します。つまり、効率が良くありません。
シングルピッキングは、以下の倉庫に適しています。
- 商品の種類が多い
- 小規模~中規模
- 注文数が少ない
- 高精度が求められる
方法② トータルピッキング(種まき方式)
「トータルピッキング」は、一度に複数注文の商品をまとめて取り出し、その後、注文別に商品を仕分ける作業方法です。
メリット
複数注文を一度に処理できるため、作業者の移動と商品の取り出し回数を削減でき、効率が高いです。
デメリット
複数の注文を同時に処理するため、商品の取り違えや数量の誤りといったピッキングエラーが発生しやすいです。
また、注文の管理や均等な労働配分などが難しくなる可能性があり、管理が複雑になります。
トータルピッキングは、以下の倉庫に適しています。
- 商品の種類が少ない
- 大規模
- 大量の注文が頻繁に発生する
方法③ マルチオーダーピッキング(ウェーブピッキング)
マルチオーダーピッキングは、トータルピッキングと同様、複数の注文商品を一度に集める方法です。
トータルピッキングは商品を集めた後に注文ごとの仕分けを行いますが、マルチオーダーピッキングでは、商品を集めながら仕分けを行います。
メリット
集め終わった後に仕分けをする必要がないため、トータルピッキングよりもさらに効率が高くなります。
デメリット
効率が良い分、作業は複雑になり、よりピッキングエラーが起こりやすいです。
マルチオーダーピッキングは、以下の倉庫に適しています。
- 中~大規模
- 高頻度かつ多品種の注文がある
- 大量の注文が頻繁に発生する
ピッキングは効率化が重要
ピッキングは手間も時間もかかる作業。
ピッキング業務の効率化は、倉庫の運用コストを抑え、サービス水準を維持する上で極めて重要です。具体的にどのような効果があるのか見ていきましょう。
効果① 労働力の最適化
ピッキング効率化により、作業者が適切な場所や適切な時間に配置されることで、過剰な人手や待ち時間を削減できます。労働力の無駄を減らし、リソースを必要なところに集中させれば、より高い品質の作業が期待できます。
効果② 生産性の向上
労働力の最適化によって従業員の能力を最大限に活用できます。より多くのタスクを効果的に処理できるようになり、事業全体の生産性向上が期待できます。
効果③ 労働コストの削減
作業の効率化によって作業者の必要時間や移動距離が減り、人件費を削減できます。ピッキング作業は倉庫管理における総労働コストの大部分を占めるため、効率的なピッキングにより全体の運用コストを下げる可能性も。
特に人手不足が問題となる今日では、効率的な作業体系により少ない人員でも業務を遂行することが求められます。
効果④ 迅速な出荷
ピッキング作業の効率化は、商品の取り出しや梱包時間の短縮に直結します。これにより、注文から出荷までのリードタイムが短くなり、顧客への配送も早まります。
効果⑤ 顧客満足度の向上
注文から受け取りまでの時間を短縮することにより、顧客満足度は大幅に向上します。
特にEコマースなどのオンライン販売では迅速な配送が顧客満足度に直結するため、ピッキングの効率化は重要な要素です。
ピッキングの課題
前述の効果を得るために、効率的で、迅速かつ正確なピッキングを目指したい!…とはいえ、ピッキング業務は多くの課題を抱えており、なかなか思い通りにはなりません。ここでは主な3つの課題について、それぞれ原因もあわせてご紹介します。
課題① 時間がかかる
ピッキング作業は、できる限り迅速に行う必要があります。そこで、「移動する時間」、「商品を探す時間」、「商品を取り出す時間」という3つの時間をできるだけ短縮したいのではないでしょうか。大規模な倉庫ではなおさらです。
ピッキングはどうしても時間を消費する作業ではありますが、必要以上の時間がかかる場合には改善が必要です。
移動する時間
まず、商品を取りに行くための移動時間がかかります。移動に時間がかかるのは仕方のないことですが、「遠回りのルートになってしまった」「よく出荷する商品が出荷位置から遠く、移動が多い」など、ムダな歩行が存在する場合もあります。そのようなムダを無くし、移動距離を最小限にしたいところです。
- 効率的なルート設計ができていない
- 商品レイアウトが最適化されていない
商品を探す時間
商品を探す時間はゼロが理想です。しかし現実問題、ロケーションをすべて把握するのは難しく、工夫が必要になります。
- ピッキングリストや倉庫内に必要な情報が書かれていない(商品レイアウトが不明確)
- 商品レイアウトが最適化されていない
- 倉庫内が整理されていない
商品を取り出す時間
商品のピック(取り出し)自体も時間を必要とします。「移動する時間」「商品を探す時間」と比べると小さな時間ではありますが、作業をスムーズに進めるためには注意すべきところです。
- 商品が混載されている
- 取り出しの頻度が高い商品が、アクセスが難しい場所や高い位置にある
課題② ピッキングエラー(ミス)が起こる
作業を人の手で行う以上、間違った商品を取り出したり、適切な数量をピックできなかったりと、必ずミスが起こります。
もし誤って出荷してしまえば顧客満足度の低下に繋がり、出荷前に気づいたとしても、正しい商品に交換するための無駄な作業コストが発生します。ピッキングエラーが頻発すると、実在庫と理論在庫が一致しなくなる場合も。
人の手が入る以上ミスの発生は避けられないため、エラーの原因を特定し、ミスを未然に防ぐための訓練や制度の整備が必要です。
- 商品レイアウトが最適化されていない
- 商品レイアウトが不明確
- ピッキングの手順が不明確
- ピッキングリストが見にくい
課題③ 作業者の質・スピードに差がある
人によって、作業スピードや正確性に差があります。
経験や技術、体力の差によりスピードが異なる、手順の理解度にばらつきがあって間違いや取り違えといったミスが発生する…。この差は全体の生産性や効率に影響するだけでなく、一部の作業者が過度な負荷を感じるなど、現場のモチベーション低下にも繋がります。
- 経験と熟練度が異なる
- 利用ツールや手順の知識に差がある
- 教育・トレーニングが不十分
ピッキング効率をあげる方法
ピッキングの効率をあげるには、前述の課題を解決してあげることが重要です。
すぐに実践できる方法も含めて、いくつか紹介していきます。
方法① レイアウトを見直す
倉庫内のレイアウトを見直すことで、上記の課題を改善できます。
「時間がかかる」を解決
出庫頻度に注目:移動する時間を短縮
「出庫頻度」に注目したレイアウトにすることで、移動時間を大幅に削減できます。出庫頻度が高い商品は出庫口付近に、頻度が低いものは出庫口から離れた位置に配置し、無駄な移動距離を短縮しましょう。
製品の重要性、金額、頻度などを基にABCのグループ分けを行う「ABC分析」を実施すると、適切なレイアウトを考える助けになります。
ロケーションに注目:商品を探す時間を短縮
ロケーションをデータとして管理する「ロケーション管理」を行うと、経験年数に依らず商品の場所を把握でき、商品を探し回る必要がなくなります。ピッキングリストや倉庫のラックにロケーションを見やすく記載しておくなどの工夫も重要です。
ロケーション管理については、以下の記事で詳しく解説しています。
セット注文に注目:商品を取り出す時間を短縮
よく一緒に注文される商品は、セットで近くに置いておくと取り出しの時間を削減できます。
「ピッキングエラーが起こる」を解決
類似商品に注目
似た商品が近くにあると、ピッキング時にミスが起こるリスクが高くなります。作業者がミスに気をつけるのは当然のことですが、間違いやすい商品は離れた場所に置いて、ミスを防止しましょう。
方法② ルールを決め、マニュアルを作成する
「ピッキングエラーが起こる」を解決
作業手順と商品の置き方に注目
作業手順と商品の置き方のルールを明確化し、「自己流」を無くして自社倉庫でのベストな作業手順を遵守できれば、ミスの減少に繋がります。
「作業者の質・スピードに差がある」を解決
マニュアルに注目
また、そのルールを明示したマニュアルは、新人教育にも役立ちます。経験や知識不足を補うことで、作業の標準化、効率化を狙えます。
方法③ ITツールを活用する
様々なITツールに注目
最新のITツールを利用することもピッキングの効率化に寄与します。
ITツールをピッキングプロセスに統合することで、作業効率と精度が向上します。さらに人的エラーを減少させ、在庫管理を最適化し、お客様へのサービス品質を向上させるのに役立つ…と、前述の方法と比べて効果も大きいです。
ただし、ある程度の費用がかかる他、適切なツールの選択とトレーニングが不可欠です。
ピッキング効率化に役立つITツール
ピッキングに関するITツールは、「ピッキングエラー(ミス)が減少する」「迅速な識別ができる」「作業が標準化できる」「リアルタイムの在庫情報の更新ができる(在庫管理の最適化に繋がる)」など、効率化の他にも様々なメリットが見込めます。
具体的にどのようなツールがあるのか見ていきましょう。
ツール① バーコード・二次元コード・RFID
バーコードや二次元コード、RFIDは、商品の「識別」を簡単・迅速にします。
バーコードや二次元コードは、商品の入荷時にコードを貼り付けておけば、ピッキング時にスマートデバイス(ハンディターミナルやタブレットなど)でスキャンするだけで商品を識別できます。
RFID(Radio Frequency Identification)は、無線でデータの読み取りを行えるシステムです。バーコードよりも広範囲かつ、複数の商品を同時に読み取ることが可能で、大量の商品を効率よく管理するには非常に有効です。
ツール② デジタルピッキング(DPS・DAS)
デジタルピッキングは、「デジタル表示器」の案内によってピッキングを行う方法です。
デジタルピッキングシステム(DPS)はシングルピッキング(摘み取り方式)を、デジタルアソートシステム(DAS)はトータルピッキング(種まき方式)に対応しています。
倉庫の棚に設置したデジタル表示器が、商品の置き場所、数量、ピッキング順序など必要な情報を提供してくれるため、作業者はそれにしたがって商品を取るだけで正確なピッキングが行えます。
ピッキングリストが不要になる他、経験やスキルに依らず作業が可能になるのが大きなメリットです。
ツール③ ピッキングロボット
ピッキングロボットは、その名の通り、人間の代わりにピッキング作業を行うロボットです。
特に複雑な商品配置や時間が掛かる作業に対して高い効率と精度を持ち、24時間稼働が可能なため、人間の労働力を大幅に減少させることができます。
ツール④ 倉庫管理システム(WMS)
倉庫管理システムは、WMS(Warehouse Management System)とも呼ばれます。
入庫から出庫までの倉庫内資材・商品の流れをコントロールし、倉庫内全般業務を効率化させるシステムです。倉庫内の在庫・設備・人員…とにかく「倉庫内のもの」を管理するのに役立ち、レイアウト最適化やルート指示など、より具体的なピッキング効率の改善もサポートします。
ツール①の「バーコード・二次元コード・RFID」と連携すれば、リアルタイムの在庫情報が更新でき、より効率的かつ正確な管理が可能になります。
倉庫管理システムについては、以下の記事で詳しく解説しています。
まとめ
昨今の物流業界では、ピッキングの効率化が大きなテーマとなっています。
レイアウトの見直しやルールの徹底、マニュアル作成など、倉庫内・作業者の環境を整えると、効率の高い作業が期待できます。さらなる効果を求める際は、倉庫管理システムなどのITツール導入もご検討ください。
物流業界だけでなく、どんな業界でも効率化は大きな課題です。進化するテクノロジーをうまく活用し、ピッキング業務の変革を進めてみませんか?