「倉庫管理」と「在庫管理」は、一部被る作業があり混同されやすい業務です。しかし、「目的」と「管理対象」という明確な違いがあります。
本記事では、倉庫管理と在庫管理の違いについて解説し、そんな在庫管理と倉庫管理の効率化を実現するための「倉庫管理システム/在庫管理システム」についてもご紹介します。
倉庫管理と在庫管理とは
まず、在庫管理と倉庫管理とはそれぞれどんな業務なのか、簡単に見ていきましょう。
倉庫管理とは
倉庫管理とは、倉庫内全般業務のマネジメントを行うことです。
倉庫内業務には以下のものが挙げられます。
- 入庫管理:荷卸・入庫伝票の照合、検品、仕分け
- 出庫管理:ピッキング、検品、梱包、出荷・出庫伝票の照合
- 倉庫の在庫管理:在庫把握、過剰在庫や欠品を防ぐために発注量や発注回数を管理
倉庫内の在庫管理も業務の一部ですが、それに加えて倉庫内設備や人員の管理も行います。
在庫管理とは
在庫管理とは、資材や商品在庫の状態、数を求められる水準で管理することです。在庫管理業務には以下が挙げられます。
- 入荷管理:商品受入、検査、検収、保管
- 出荷管理:ピッキング、検品、発送
- 在庫処理:返品処理、廃棄
- 棚卸管理:実在庫数チェック
在庫数の把握や数量管理が主な業務であり、倉庫内の業務全般をマネジメントする倉庫管理とは異なります。ただし、入庫前や出庫後の在庫も管理するため、倉庫との関わりもあります。
倉庫管理と在庫管理の違い
改めて書き出すと、倉庫管理と在庫管理業務は非常に似ています。
しかし大きく異なっているのは、「目的」と「管理対象」という2点です。
違い① 管理の目的
倉庫管理:倉庫内全般業務の効率化
在庫管理:在庫適正量の管理による、利益の最大化
違い② 管理対象
倉庫管理:倉庫内の在庫、設備、人員倉庫内のもの全て
在庫管理:倉庫内外(店舗など)の在庫扱う商品・製品在庫全て
倉庫管理は倉庫内のものを網羅していますが、在庫管理はあくまで「在庫」の管理のみ。ただし、入庫前や出庫後の、店舗など倉庫外にある在庫も管理することができます。
つまり、倉庫管理は「倉庫内の全てのもの」の管理、在庫管理は「倉庫内外にある全ての在庫」の管理を意味します。
それぞれの管理方法は?
倉庫管理を効率化する方法はいくつかあり、「倉庫内を整理整頓する」「ピッキング導線を短縮する配置に変更(レイアウト変更)する」などすぐに実践可能なものもあります。
倉庫管理、在庫管理を効率化する方法としては、次のツールの使用が挙げられます。
方法① Excel
Excelを用いた管理は、在庫数量や在庫状況をExcelの表に記載し、手動で更新する方法です。
Excelによる在庫管理は、在庫の管理に必要な機能や表の設計が可能なため、倉庫の規模が小さく管理すべき商品が少ない場合に向いています。
更新が手動で行われるため、コストが抑えられ、導入も簡単です。
一方で、人為的ミスが起こりやすく、更新や集計に時間がかかることがあります。また、在庫の動向やトレンドを把握することが難しいため、最適な在庫量の把握は厳しいです。
方法② システム
システムを用いた管理は、在庫の自動更新や商品の入出庫管理、在庫数の集計などの在庫管理、倉庫の入出庫管理や棚卸管理を自動で行う方法です。
システムを使用することで複数の倉庫を一元管理することができ、在庫量や動向をリアルタイムで把握することができます。
システムを用いた管理では、初期コストがかかる上、導入までに時間を要します。しかし、自動で更新されるため人為的ミスが少なく、在庫状況をリアルタイムで把握できるため、在庫を最適化できるというメリットがあるのです。
つまり、「初期コストと導入ハードル」を考えればExcel管理、「長期的なコストと正確性」を考えるならシステム管理が優れているといえます。倉庫の規模や管理すべき商品数、予算にもよりますが、やはり効果を実感しやすいのは「システム導入」です。
これから倉庫管理システムと在庫管理システムについて、それぞれご紹介していきます。
倉庫管理システム(WMS)とは
倉庫管理システムは、WMS(Warehouse Management System)とも呼ばれます。
入庫から出庫までの倉庫内資材・商品の流れをコントロールし、倉庫内全般業務を効率化させるシステムです。在庫管理の機能もありますが、あくまで倉庫内の在庫のみを管理します。
倉庫内の在庫、設備、人員と、とにかく「倉庫内のもの」を管理するのに役立つシステムです。
倉庫管理システムの基本機能
以下が倉庫管理システムの基本機能です。
- 入出庫管理
- 卸売管理
- 在庫管理
- 帳票、ラベル管理
- 商品管理
- 返品管理
では、倉庫管理システムには具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
メリット① ヒューマンエラー防止
システム導入の大きなメリットは、やはりヒューマンエラーが防げることです。
手作業ではどんなに気をつけていても必ずミスが発生しますが、システムに任せることで業務が正確に流れます。
メリット② 業務の効率化・標準化
前述の通り、今まで人が担っていた作業をシステムで自動化できます。
業務を効率化することで人的コストを大幅に減らし、その分、より生産性の高い仕事に人員を配置することが可能です。
また、システムを導入することで業務のルールが一本化され、システムによる補助で個人の作業スピードの差をならすこともでき、業務の標準化に繋がります。
メリット③ 倉庫スペースの有効活用
倉庫管理システムを導入すると正確なロケーション管理(とくにフリーロケーション管理)が可能になり、デッドスペースを生まず、倉庫内のスペースを最大限有効に使えます。
ロケーション管理については、こちらの記事で詳しく解説しています。
メリット④ リアルタイムの倉庫内情報の把握
手作業による情報更新では、作業~入力までのタイムラグが存在します。しかし、システムではリアルタイムで在庫状況、発送状況など最新の情報を管理でき、欠品や過剰在庫のリスクを防げます。
WCS、WESとの違い
倉庫管理システム(WMS)と似たものとして、倉庫内制御システム(WCS)と倉庫運用管理システム(WES)が存在します。これらも倉庫内業務を効率化するシステムですが、倉庫管理システムとは内容が異なりますので、簡単に説明します。
WCS(Warehouse Control System)
倉庫内制御システム。マテハン機器(マテリアルハンドリング機器)など、倉庫内機械設備を遠隔制御できます。
WES(Warehouse Execution System)
倉庫運用管理システム。倉庫内の在庫、人員の作業状況、設備の稼働状況といったデータを可視化し、倉庫内作業のオペレーションを管理できます。
在庫管理システムとは
在庫管理システムは、正確な在庫情報を管理することで欠品や過剰在庫が起こらない適正な在庫量、在庫状態を保つシステムです。こちらは、入荷から出荷までの在庫を管理対象とするため、倉庫内だけでなく、店舗などの倉庫外にある在庫も管理します。
在庫管理システムの基本機能
以下が倉庫管理システムの基本機能です。
- 在庫管理一覧
- 返品管理
- データ抽出
- 入出庫管理
- 在庫分析
- マスタ管理
- 検品管理
- 棚卸
こちらも倉庫管理システムと同様、搭載機能はシステムにより異なります。
在庫管理システムのメリット
在庫管理システムのメリットも見ていきましょう。倉庫管理システムのメリットと被る部分もありますが、「在庫適正量を保つ」という、在庫管理の目的でありながら実現が難しい部分を叶えます。
メリット① ヒューマンエラー防止
倉庫管理システム同様、システムを使うことでヒューマンエラーを無くし、作業精度を上げることができます。
メリット② 業務の効率化・標準化
こちらも倉庫管理システムと同様です。手作業の一部をシステムで自動化することは、その作業自体の効率はもちろんですが、現場の業務フローの見直し機会にもなります。
メリット③ リアルタイムの在庫数把握
こちらもシステムにリアルタイムの在庫情報を集積できます。最新の実在庫数を把握することは、過剰在庫を減らし、適正な在庫量を保つことに繋がります。
メリット④ 在庫コストの最適化(在庫ロスや欠品を減らす)
システムでヒューマンエラーが減ることで正確な在庫データが得られ、実際に倉庫にある「実在庫」と、データ上で存在している「理論在庫」との「ズレ」を小さくすることができます。このズレがあると、過剰在庫や欠品が起こり、機会損失や過剰在庫管理のコスト増加につながります。
システムによって情報の「正確性」と「リアルタイム性」が確保され、実在庫と理論在庫を近づけることができるのです。その結果、在庫コストが最適化され、在庫管理の目的である「利益を最大化する」ことが可能になります。
システム化の注意点
倉庫管理システムと在庫管理システムのメリットをそれぞれ紹介してきましたが、もちろん良い部分だけではありません。システム導入には注意すべき点が3つ存在します。とくに「システム選定」に関しては、企業の損にも繋がりかねないため、注意が必要です。
注意点① 導入コスト
システム導入には高額な費用がかかり、その価格帯も様々です。以下3つの点において、どのような選択をするかによって費用はかなり変わってきます。
- クラウドか?オンプレミスか?(サブスク型/買い切り型)
- パッケージシステムを購入するか?スクラッチ開発か(既製システム/イチから開発)
- パッケージシステムを買うなら、カスタマイズはするのか?しないのか?
もちろん、「システム導入はコストがかかる=損」というわけではありません。システムを上手く活用して前述のメリットを得られれば、投資以上の効果を得ることができます。ただしそのためには、「自社に合ったシステム」を選定しなければなりません。
注意点② システム選定に苦労する
イチから開発ではなくパッケージシステムを使用する場合、システムの種類は数多く、「自社に合ったシステム」を選ぶまでにはそれなりの時間を要します。次章では、システム選定のポイントを3点解説します。
注意点③ 運用慣れに時間がかかる
システム導入のメリットとして、「業務効率化(手作業で行っていた業務が自動化できる)」を挙げました。もちろんメリットではありますが、それによって人員配置や業務フローが変化するため、現場の方はシステム操作以外にも新しい運用体制に慣れる必要があります。導入担当者は運用マニュアルやルールなど作成・周知し、現場からの理解を得られるよう働きかけましょう。
システムの選び方
自社に適したシステムを選ぶためには、以下の3つの点をよく確認しましょう。
システム選定のポイント① 運用目的、現在の業務課題
システムを選ぶ際には、「自社にとって不足のない機能」を考えましょう。冷静に現在の業務を俯瞰し、現状を正しく理解した上で「自社の解決したい課題」「課題解決に必要な機能」を明確にできれば、「自社業務に合うシステム」の輪郭がはっきりします。
システム選定のポイント② 同業界、同規模企業による導入実績
「同業界、同規模企業」、つまり自社に近しい企業から選択されているということは、自社の要望にも応えている可能性が高いです。ただ「売れている」システムではなく、「自社に近い企業から売れている」システムを探してみるのが、有効な選定方法の1つです。
システム選定のポイント③ サポート内容
最後に、システム障害時はもちろん、運用相談にもすぐに対応してもらえることが重要です。「サポート対応可能時間」「サポート方法」などをチェックし、サポートの手厚いベンダーを選びましょう。
まとめ
倉庫管理と在庫管理の違いは、「目的」と「管理対象」です。
倉庫管理は「倉庫内全般業務の効率化」を目的とし、「倉庫内のもの全て」を管理対象とします。在庫管理の機能も持ちますが、倉庫外の在庫は管理対象外となります。
一方、在庫管理は「在庫適正量の管理による、利益の最大化」を目的とし、「倉庫内外の在庫全て」を管理対象とします。
業務を効率化するツールとして「倉庫管理/在庫管理システム」についてそれぞれご紹介しましたが、システムは効果だけでなく費用も高く、導入ハードルは決して低くありません。
システム導入に関するお悩みがある場合は、ぜひ当社までお気軽にご相談ください。