検品レス、伝票レスの仕組みを徹底解説!必要条件のハードル?

検品レス、伝票レスの仕組みを徹底解説!必要条件のハードル?

流通業界において、流通BMS(流通ビジネスメッセージ標準)という言葉を耳にする機会が増えてきました。従来型のEDI(電子データ交換)から「流通BMS」への置き換わりが拡大しているのです。そして「流通BMS」の普及により出荷側と入荷側の双方で行っている二重検品をなくす「検品レス」の実現に期待が高まっています。「メーカー」「卸」「小売」の事業者間で二重検品をなくすことができれば格段に業務効率が向上します。
しかし、本当に「流通BMS」の利用が主流になるのか?そもそも導入メリットがあるのは大手企業だけではないのか?と、導入に踏み切れない企業も多いのではないでしょうか?

今回は、なぜ他社は「流通BMS」を導入するのか?「検品レス」「伝票レス」の仕組みと必要な条件について解説します。

目次

なぜ流通BMSを導入するのか

流通における企業間取引では、受注、発注、入荷、出荷、納品、請求に係るさまざまな帳票をメール、FAX、郵送といった手段でやり取りしていました。こうした、企業間取引を効率化するため専用回線やインターネット回線を用いて電子データでやり取りする仕組みEDI(電子データ交換)が誕生しました。それぞれのEDIの特徴を見てみましょう。

従来型EDI(レガシーEDI)とは

1980年にISDNなどの公衆交換電話網を使い、JCA手順という標準仕様で通信する「レガシーEDI」が誕生しました。アナログ電話回線を使うため回線費用が非常に高く、スピードが極めて遅い通信方式です。2024年にISDNサービスの終了が予定されていますので、すぐに新たな方式への切り替えが必要です。

WEB-EDIとは

その後、インターネット回線を用いて電子データをやり取りする「WEB-EDI」という仕組みが登場しました。インターネット回線を使うことで回線費用が安く、通信速度が格段に向上しました。WEB-EDIは専用ソフトが不要で、パソコンのブラウザを操作して受発注するという手軽さがあります。しかし、最大の弱点はシステムが標準化されていないことと、受発注に係る作業を全て手作業で行う点です。WEB-EDIは仕様が標準化されていないため、画面レイアウトや帳票レイアウトが各社ごとに異なり、作業の自動化が非常に困難です。

流通BMS(流通ビジネスメッセージ標準)とは

EDI技術の老朽化対策とEDI仕様の標準化を目的として誕生したのが「流通BMS」です。経済産業省が中心となり業界関連団体と協議を重ね作られた新しいEDI方式です。通信方式とメッセージフォーマットを標準化したことにより、小売ごとにバラバラであったシステムを業界全体で統一することが可能になりました。つまりメーカー・卸が小売ごとにEDIシステムを開発する必要がなくなるのです。そして何より期待されるのが「検品レス」「伝票レス」の実現です。従来型のEDIでも一部の小売で実施されていましたが、手順が統一されていないため、メーカー・卸側の負担が大きいものでした。

サプライチェーンにおける検品の実態

EDI

商品は「メーカー」「卸」「小売」を経由して消費者の手に届く流れが一般的です。これら商品の原材料調達から消費に至るまでの一連の流れをサプライチェーンと呼び、自社だけでなく複数の企業間で情報の共有を行うことが業務効率化のカギとなります。
しかし実際は、出荷側と入荷側の双方で行っている「検品」による業務負荷が課題となっています。メーカー側が出荷段階で正確な出荷検品を行っているにも関わらず、入荷側の卸でも入荷検品を行っていることが多く、卸と小売間でも同様の検品業務が発生します。つまり流通全体で「検品」に二重のコストと時間をかけているのです。本来であれば、出荷側が正確に検品を行い出荷しているのであれば、入荷側の検品は簡略化できるはずです。
バーコードによる検品が普及したことにより、すべての商品バーコードをスキャンする全数検品も業務負荷に拍車をかけています。在庫管理を効率化するために導入したはずのシステムも本来の目的から離れ、全数スキャンすることが目的にすり替わってしまったのです。

検品レスの仕組み

検品レスを実現するためにはどのような仕組みが必要なのでしょう。「検品レス」というと出荷側、入荷側の双方で検品が不要になると勘違いされることがあります。実際は出荷側が正確に検品を行うことで、入荷側の検品を簡略化または抜き打ちで一部の検品を行うに留まることを指します。そのため、出荷側の正確な検品による出荷精度の向上が「検品レス」の大前提となります。加えて、出荷する商品の情報をあらかじめ入荷側に通知することで「検品レス」が実現します。

ASN(事前出荷通知)とは?

ASNとはAdvanced Shipping Noticeの略で「事前出荷通知」「事前出荷情報」の意味ですが、入荷側から見れば事前に送られてくる「入庫予定データ」となります。
流通BMSでは「事前出荷情報」という標準メッセージがあり、従来の納品伝票の代わりに出荷側が入荷側に納品明細情報を電子データで送ります。
事前通知される内容は主に、納品日、届先、商品情報、数量、賞味期限、パレット番号などです。これら、商品の納品情報はEDIで電子データ交換されるため、納品伝票が不要となり「伝票レス」が実現します。

SCMラベル(出荷梱包表示)とは?

入荷側では「事前出荷情報」と実際に届く「商品」の紐づけが必要になりますが、ここで重要なのがSCMラベルです。SCMラベルとはShipping Carton Markingの略で「出荷梱包表示」と訳され、出荷される商品の梱包箱やパレット、折畳みコンテナに貼り付けます。
SCMラベルには商品の出荷元、出荷先、梱包内容、数量など目視できる情報とそれらをシステムで確認するためのバーコードが印刷されています。

入荷の流れ
  1. 小売が、発注データをオンラインで取引先に送信
  2. メーカーまたは卸は、受注データに基づいてピッキングリストを作成
  3. ピッキングリストに従って商品をピッキング
  4. SCMラベルをプリンタで発行
  5. 納品明細データを作成
  6. 小売に納品明細データを事前にオンラインで送信(ANS)
  7. 小売は納品明細データを基に、バーコードスキャニング用情報を作成
  8. 小売は梱包箱/パレット/折畳みコンテナに貼られたSCMラベルをスキャン。バーコードスキャニング情報と照合して正しく入荷されたとみなして入荷を確定

検品レスへの必要条件

検品レスは入荷側から見れば、入荷検品にかかる手間とコストが削減されるため大きな恩恵を受けることとなり是非とも導入したいと考えるでしょう。出荷側から見れば、入荷側の検品を省略するほど精度の高い出荷が求められるため、負担増となり得ます。しかし、大規模化した小売は巨大な販売力を武器にメーカー・卸に対して強い交渉力を持つようになりました。つまり、小売の要求に対応できないメーカー・卸は市場から取り残されてしまうのです。今が、検品レスに対応するためのシステム構築をするターニングポイントなのかもしれません。検品レスに必要な条件は以下の3つです。

流通BMS(流通ビジネスメッセージ標準)の導入

ANSデータは統一されたデータフォーマットを使用するため、流通業界全体で標準化された電子データ交換が必要です。流通BMSは小売ごとにバラバラであったメッセージフォーマットを統一したEDI(電子データ交換)の新しいガイドラインです。
従来型のEDIでもASN運用は行われていますが、データ転送速度が遅いため、荷物より後にASNデータが到着し検品時にASNデータが利用できないといったトラブルが発生します。WEB-EDIでASN運用する場合は、小売ごとに異なった検品システムで検品を行うため、別の小売では使用できないことがあり注意が必要です。

流通BMSに対応した販売管理システムの導入

販売管理システムは商品の注文をうけてから代金を回収するまでの「商品」と「お金」の流れをコントロールする販売・購買の要となるシステムです。2015年の日本経済社による電話調査では、90.1%が販売管理システムを導入済または導入予定であるとの結果でした。しかし、システムの老朽化が進み流通BMSに対応できていないシステムが問題となっており、流通BMS対応システムへの見直しと検討が必要です。

倉庫管理システムとハンディーターミナルの導入

出荷側の正確な検品による出荷精度の向上が求められるため、出荷検品作業のシステム化が必要です。倉庫管理システムとハンディーターミナルによる正確な検品に加え、販売管理システムとの連携による倉庫オペレーションの構築が必須となります。

流通BMSの推進

このように、「検品レス」「伝票レス」には高いハードルがあるように思われますが、「販売管理システム」「倉庫管理システム」の導入を前提とすれば、出荷側のメーカー・卸も大変大きな恩恵を受けることができます。一見すると、入荷側の小売にしかメリットがないように思われる仕組みですが、出荷精度の向上を実現するのはメーカー・卸の本来あるべき姿です。正確な出荷作業は在庫管理精度の向上さらには利益向上につながります。メーカー・卸の各社が、個々のシステムで優位性を競っていたような時代は終わり、これからは生き残りをかけて協力する時代となりました。流通BMSが普及すれば、コスト的にも優れ、スムーズで安全な取引ができ、メーカー、卸、小売ともに大きなメリットとなります。

流通BMS協議会の調査では2022年6月1日時点でメーカー・卸の流通BMS導入企業数は16,600社以上であり半年間で約500社増加しています。2024年に予定されているISDNサービス終了に伴い流通BMSの普及が拡大すると推測されますが、それよりも前に別の大きな転換が起こることが予定されています。2023年10月に施行されるインボイス制度(適格請求書等保存方式)と2023年12月末まで猶予となった電子帳簿保存法の改訂です。いずれも法的な義務ですので対応する必要があります。老朽化したシステムの見直し検討、新規導入検討が必要です。この機会に流通BMSに対応した販売管理システム、倉庫管理システムへの切り替えを検討されてはいかがでしょうか。
 ※出典:流通BMS協議会 https://www.gs1jp.org/ryutsu-bms/

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